昭和二年の夏,神戸の奥にある酒蔵の町・玖上(くがみ)。摂陽生命の調査係・印南眞平は,二十年も座敷牢に籠っていた旧家の総領が病死したという一件を調べに,この町を訪れる。焼け潰れて読めない親指。六年も前に絶えた,病人の薬。甘党の保険屋と,夏を厭う人外の連れ——二人の行く先,軒の風鈴が握り潰したような声で鳴きはじめる。
氷菓と風鈴,ひと夏の怪異譚。